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そうしていると陣が「聴く?」なんて、iPodをバッグから取り出した。
不謹慎かな? でも、気が紛れるかも。
そんなことを言いながら、あたしの肩を引き寄せる。
あたしは陣に近寄って、1曲だけ一緒に聴いた。
男の人が歌う、切ないバラード。
聴いているうちにしんみりして来てしまって、あたしはそっとイヤフォンを外した。
実はこの時のあたし、ちょっと緊張していた。
13年ぶりの、お父さんとの対面を前に。
しかも、相手は遺体だし。
「こっちですわ」
藤原さんに案内されたのは、一見倉庫に見えてしまいそうな、簡素な造りの建物。
遺体を保管している冷凍庫があるのだそうだ。
藤原さん達は白い手袋をして、それぞれ数珠を手にしている。
やがて、ドラマの鑑識さんみたいな人達が、ストレッチャーで何か運んで来た。
乗せられたものは大きな布で人型に包まれていて、あたしは思わず息を飲む。
「……それじゃ、確認お願いします」
声のトーンが低くなった藤原さんは、手を合わせてから布を左右に開いた。
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