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すると、いつもは弱々しいお母さんの色素の薄い瞳が、凛とあたしを射抜く。
「誰に向かって言っているの? あなたの父親なのよ」
お母さんの言う意味は、何となく判る。
だけど、父親の役割を放棄した男に、いい感情なんて持てるわけがない。
可愛がられた思い出でもあれば、悼んであげられるのかも知れないけど。
黙り込んだあたしに、お母さんは強い口調で続けた。
「身体が思うように動けば、あなたにお願いしたりしないけど。出来ないから、お願いしてるのよ。広樹と葬儀屋さんと一緒に、お父さんを迎えに行って」
お母さんの希望は、うちからお葬式を出すこと、だった。
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