10.姫の我儘

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  「ねえ、陣」  仕事を上がった後、2人でどこへ行くでもなく、公園のブランコに腰かけて、暖かい缶コーヒーを手にしていた。  帰るのが嫌でこうして過ごすなんて、まるで中学生のカップルみたい。  あたしが名前を呼ぶと、陣は少し窮屈そうにしながら「ん?」と瞳を傾けてくれる。 「陣って、実家? 1人住まい?」 「一応、実家だよ」 「そっか」  それ以上会話が広がらず、あたしは俯く。  言葉で伝えるのがもどかしくて、あたしはさっと立ち上がった。 「姫?」  邪魔になった缶コーヒーを、ブランコの柵の上に置いて、陣を振り返る。  キョトンとあたしを見上げる、眼鏡越しの真っ黒の瞳。  その瞳があまりに澄んでいて、あたしは一瞬躊躇った。  けど、抑えることも難しそうで。 .
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