10.姫の我儘

5/11
前へ
/28ページ
次へ
   あたしはそのまま身を屈めると、陣の肩に手を置いて、彼の唇に自分の唇をフワリと重ねた。 「……っ」  唇と唇を重ねるだけのキスで、あたしには精一杯だ。  そっと唇を離して目を開けると、そこにあったのは【男】の瞳だった。 「どーしたの、姫」  口調こそいつもの陣のそれだったけど、真っ黒な瞳はあたしを観察するみたいに追いかけて来る。  軽く熱を帯びたその瞳に、安心した。 「……ねえ、あたし達、付き合ってるんだよね?」  あたしの問いに、陣は「うん」と頷いた。  ──好きだから。  それだけではない欲望が、あたしの中で鎌首をもたげる。  それを、どうやって陣に伝えたらいいんだろう。  すると、意地悪そうな笑みを浮かべて、陣は口の端を上げた。 「……ダメ。お父さんの初七日もまだ済んでないのに、不謹慎だから、姫」 .
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

163人が本棚に入れています
本棚に追加