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あたしはそのまま身を屈めると、陣の肩に手を置いて、彼の唇に自分の唇をフワリと重ねた。
「……っ」
唇と唇を重ねるだけのキスで、あたしには精一杯だ。
そっと唇を離して目を開けると、そこにあったのは【男】の瞳だった。
「どーしたの、姫」
口調こそいつもの陣のそれだったけど、真っ黒な瞳はあたしを観察するみたいに追いかけて来る。
軽く熱を帯びたその瞳に、安心した。
「……ねえ、あたし達、付き合ってるんだよね?」
あたしの問いに、陣は「うん」と頷いた。
──好きだから。
それだけではない欲望が、あたしの中で鎌首をもたげる。
それを、どうやって陣に伝えたらいいんだろう。
すると、意地悪そうな笑みを浮かべて、陣は口の端を上げた。
「……ダメ。お父さんの初七日もまだ済んでないのに、不謹慎だから、姫」
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