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「今日ね。藤乃さん同伴で遅くなるから、いい機会だと思って」
「な、何かあった?」
「あった、なんてもんじゃないの」
藍さんは忌ま忌ましげに灰皿に煙草を押し付ける。
強めに潰された煙草の火種は、不完全燃焼で焦げ臭くなった。
「昨夜、いつもみたく阪崎先生がお忍びでいらっしゃったの。藤乃さんは閉店まで引き伸ばして接客しててね。その辺りまではさすが藤乃さんね、って皆で話してたんだけど」
そこで藍さんは、苦い表情で腕を組む。
あたしは予想が全く出来ずに、眉根を寄せた。
「そのままアフターだって帰ったんだけど、あたしが帰ろうとしたら、表の通りにまだ阪崎先生の車があって。その車の陰で藤乃さんと阪崎先生、抱き合ってキスしてたの」
ガン、と頭の中で音がした。
枕営業だったなんて冗談じゃないとか、ホステスのプライドを汚されたとか、藍さんは悔しそうに何か言ってた気がするんだけど。
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