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やがて陣も目が覚めて、今度はあたしがお揃いのカップでコーヒーを入れた。
すると、陣は黒いカップを軽く持ち上げ、あたしに示して見せる。
「なあ、留衣。何か辛いことがあった次の朝は、このカップでコーヒーを入れるって約束にしようか?」
「約束?」
「そう。たとえば、俺に何かあったら、次の朝留衣がコーヒーを入れて欲しいな。留衣に何かあったら、俺が入れる」
あたしは軽く首を傾げて、陣を見た。
「じゃあ、喧嘩した時は?」
「そんなの、悪い方が入れるに決まってるだろ?」
「喧嘩は両成敗じゃないの?」
「両成敗って……留衣、古いなぁ」
「なっ!」
そんな他愛もないことを話しながら、この約束が「あたしが離れて行かない」証明になればいいと思った。
ずっとずっと傍にいて、翌朝のコーヒーを入れるよって。
このカップでコーヒーを飲む度、また約束を繰り返して行こう。
いつか、それが当たり前になるくらいに。
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