16.拭われる不安

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   脳天気に挨拶をしてしまってから、藤乃さんは今日病院へ行く、と言っていたことを思い出した。  陣と過ごした昨夜が濃過ぎて、すっかり忘れてしまっていた。  藤乃さん、病院どうだったんだろう?  控え室には、やたら早く出勤して来たあたししかいなかったから、何だか緊張感。  すると、藤乃さんは何だか気の抜けたような顔で、控え室に足を踏み入れた。 「おはよう、ルイちゃん」  トコトコ、とあたしの横をすり抜け、藤乃さんは椅子に座った。  そういえば、軽く巻いてあるだけの髪は、いつもの姫スタイル程完璧じゃない。 「……藤乃さん?」  話しかけたけど、目の前の藤乃さんの様子は、疲れている、というには何か違う。  放心状態って感じだ。  あたしが顔を覗き込むと、藤乃さんはのろのろとあたしを見上げた。 「……ルイちゃん、私、広樹さんに何て言ったらいいだろう……」  目が合った瞬間、藤乃さんの瞳がジワリ、と潤む。  心許ないその瞳に、縋られた気がした。 .
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