moonlight 第一章

1/31
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ

moonlight 第一章

七月。夏休み前。  暴力的な暑さで、セミの声すら嫌に思う炎天下のなか、岩国総合高校(いわくにそうごうこうこう)職員校舎一階にある、放送室で、 『今日も聴いてくれてありがとう! 来週もよろしくぅー!』  ネオがマイクに向かって叫んだ。  そして、ゆっくりと音量を下げて、ホッ、と息をつく。 「……よし、今日もバッチリだったね、みっちぃ」 「ああ、おつかれ」  アコースティックギターを壁に置き、みちるはネオとハイタッチを交わす。今日もひと仕事を終えて、みちるは胸の高鳴りが緩くなった気がした。それはネオも同じだった。  周りにギャラリーがいるならテンションを楽しくできるのだが、ここにあるのは数々の機材だけ。幅も狭く、自分たち以外は誰もいないので、何回やっても、二人は緊張感を拭うことができないのだ。マイクの先にいる見えないギャラリー――学生たちはどう感じているのか、どんなふうに聴いてくれているのだろう、テレビでアーティストが収録する時もこういう気持ちなのかなあ、とネオは思った。
/31ページ

最初のコメントを投稿しよう!