プロローグ 稚内にて

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 日本全国に蜘蛛の巣のように張り巡らされている線路は、分岐と合流を繰り返し、最西端・最東端・最北端・最南端の駅にたどり着く。東は東根室、西はたびら平戸口、そして、南と北は――  2013年9月、北海道稚内市。この町にある、一つのランドマーク。三角錐を模した、石製のそのランドマークには、「日本最北の地」と記されている。  日本各地から延びてきた線路は、この地で北の終端を迎える。逆に言うならば、この地から日本各地に線路が延びていくのだ。  そのランドマークの前に、大荷物を背負った一人の青年が立っていた。周りの観光客が記念写真を撮ったり、ランドマークを見て愉しげに話をしたりしているなか、青年はただ一人、静かにランドマークを見つめていた。  彼の外見を言葉で表すと、黒髪で体型は痩形。分厚いレンズの黒縁眼鏡をかけた青年である。顔立ちはなかなかで、スーツを着ていれば、都会で働く会社員にも思えるような雰囲気の青年である。  彼は、右手に緑色の切符を持っていた。未使用の「青春18切符」である。彼は左手の腕時計が午後1時半を指したのを確認して、その場から去っていった。
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