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稚内駅を発車した快速列車は、山と海の間を走っていた。車窓から見える景色も最初は興味深かったが、今はもう飽きてしまった。
そうなると、視線は自然と反対の席に移るが、彼――上野北斗は、それを極力避けたかった。別に、反対側の席に変なものが乗っている訳ではない。反対側の席に乗っているは、女性である。
その女性が普通の女性ならば、彼も視線を窓から外せただろう。ただ、反対側の席に乗っていたのは普通の女性では無かった――自分が一目見た瞬間、惚れてしまった女性だった。
一目惚れをしたのは、これが初めてかもしれない。初め、話かけられた時に鼻血を吹きそうになったのも、それが原因だった。列車は、そんなことはお構いなしに、北海道の大地を進んでいく。
(仕方がない、覚悟を決めるか。)
列車が勇知を通過したのを確認してから、彼は心の内でそう呟くと、目線を車内に戻した。自然に彼女と目が合った。顔が赤色に染まりそうなのを全力で堪えて、平常心を装っていた。二人の間に沈黙が流れる。
(さすがに何も話さないのはきついな……何か話題を振りたいところだけど……)
彼はさすがに日常で女性と話さない、というタイプの男性では無い。普通に女性とも話す。だから、女性向けの話題を幾つか持ち合わせている。だが、そのどれもが、彼女と話すには何かが足りない気がした。
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