§106 大きな絵画に白滲む

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「た、大変失礼しました! ただ今ご案内します」  病院や役所といった場所の受付係の人間はこの白いピアスの意味を知っている。  その色、形状はフィリアが本部所属の軍人である事を示していた。  フィリアは案内された病室の前まで来ると、入る前に受付嬢を払う。  この病室がある階は主に訳有り患者専用のものだ。  貴族、身を隠したい者、身寄りがいない者、様々な患者がいる。  フィリアは迷う事なく病室の扉をノックした。  返事がない代わりに、勝手に扉が内側に開く。  そこには、患者服を身に纏ったゾネがいた。  ゾネはフィリアの姿を見ると、大きく目を見開く。 「……リー」  彼に普段のような明るさはなかった。  見た目から判断して目立った怪我はないようだが、ゾネはフィリアを見上げたままどこか悲しげに顔を歪める。  フィリアはゾネの肩に軽く触れながら病室内へと入り、扉を閉めた。  清潔な白い壁と白いベッド。  揺れる白いカーテンの向こうには、青い空が広がっていた。  開いてる窓とその下の椅子を見ると、先ほどまでゾネが外を眺めていた事が直ぐに分かる。 .
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