§106 大きな絵画に白滲む

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「まあ、こんな所で考えてたってどうしようもならない、か。ねえ、ゾネはこれからどうする?」 「オイラ?」  窓辺に寄り掛かって肘を抱えるフィリアに向かって、首をかしげながら怪訝な表情を浮かべるゾネ。  彼女の漆黒の瞳には哀愁こそあれど、迷いは見受けられない。  『迷わない』──彼女は口にした通り、戦う事を決意しているに違いない。  ゾネは天井を仰いだ。  ゆっくりと目を閉じると、大好きだった村人達と契約者の笑顔が浮かぶ。  彼らの姿が霞み消えて行くと、ゾネはようやくいつものようににんまりと笑った。 「オイラはね、人間が大好きだ」  フィリアは目を丸くさせる。  ゾネはごろんと背中をベッドに転がすと、両手を天井へと伸ばした。 「手伝うよ、オイラも戦う」 「……でも、ゾネ」 「いいんだ。だってオイラ、決めたんだ」  精霊と戦うという事は、ゾネは同族と対立するという事。  それでも、ゾネは揺るがない。  鍵を守る──ラウドの母エステルとの約束を守りきれなかった。  だからこそ、今度は守るのだ。  彼女が守ろうとしていた大切なものを。 .
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