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フィリアにはゾネの根底にある想いを理解する事は出来ないが、彼の決意は感じ取る事が出来る。
ゾネは決して嘘をつかない──そう思えてしまうから彼は不思議だ。
フィリアは小さく微笑み、窓から吹き込んで来る風によって揺れる髪を押さえた。
人間にとって毒となる精霊の魔力が混ざった風は、そのまま部屋の中にすり抜ける。
「……帰ろう」
フィリアの呟きを聞いたゾネは目を丸くさせ、身体を起こした。
ベッドの上に座り込むゾネにフィリアはもう一度繰り返す。
「帰ろう、皆のところに」
──帰ろう、王都に。
──帰ろう、仲間が集まる町に。
──帰ろう、帰っても良いと思える場所に。
──帰ろう、自分達の居場所に。
ゾネはフィリアの優しい表情を見つめ、一度ベッドに視線を落とす。
フィリアが帰ろうとしている場所はゾネにとってはまだ弱い繋がり。
しかし、彼女は共に帰ろうと言ってくれた。
ゾネはゆっくりと微笑み、顔を上げる。
「うん、帰ろう」
──それから二人が王都スティークルに戻ったのは、三日後の事だった。
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