§106 大きな絵画に白滲む

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「これは、神々が与えし試練だ」  イネラス村長の声は震え、今にも消えてしまいそうなほどか細い。  雑音まじりの必死な訴えは、青年のボロボロな心を導く。 「──生き抜け、生き抜いてくれ」  滑り落ちるように落ちたイネラス村長の手。  それに続くように彼の身体は地面へと倒れていった。  ピクリとも動かなくなってしまった村長を見つめ、青年は腕の中の女性を強く抱き締めた。  そして、ゆっくりと女性を地面に横たわらせると、村長の身体も綺麗に整える。  冷たくなっていく彼らの腕を掴み、胸の前で指を組ませる青年の身体は小刻みに震えていた。  多くの人々が死んでしまった。  理不尽な脅威を誰も止められない。 「……神よ、何故ですッ」  青年はイネラス村長と女性の亡骸にしがみつくように伏せ、奥歯を噛み締めた。  抗う力などない。  このまま殺されても構わない。  しかし、こうして生き残っている。  それが神の選択だというのならば、フリアトリエルの村人として従おう。  青年の悲しみの雄叫びが森中に染み渡った──。 .
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