§106 大きな絵画に白滲む

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 ──透き通るような白く長い髪は揺れ、舞う。  大天使の大きな翼や身体に巻き付けられた布にはおびただしい量の血が付いていた。  アーカインジェルは地面に倒れ伏せ、浅い呼吸を繰り返す。 「……長い間、ご苦労様。眠れ、大天使」  爪先からゆっくりと粒子になり始めるアーカインジェルを見下ろすのは、人の道から外れてしまった男。  ガルイースは寂しそうに微笑み、ゆっくりと服の裾を翻した。  銀色の髪は生暖かい風に揺れ、碧い瞳は悲しさに揺れる。  アーカインジェルは消えていく憐れな精霊王の背中を“見つめた”。  散々虐げられて来た日々。  ルースと出会って変わった想い。  精霊に触れて変わった人生。  精霊を良いように扱う人間を消し去ろう。  どんなに苦しくとも、悲しくとも、ガルイースは決意していた。  精霊にとって幸せな世界を創ろう、と。  アーカインジェルの身体は地面の色が見えるほど透明になっていく。  目を覆っていた包帯が消滅していった。 「……憐れ、人の子よ」  アーカインジェルは青い瞳をゆっくりと閉じた──。 .
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