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しかし、ティーダ部隊が納得していないのはクルスも分かっていた。
クルスが持っている通過証は、紛失すれば大罪人とされてしまうほど貴重な物である。
軍人ではない一般人が雇われとして通過証を持っている。
その事実はどう考えても異常だ。
また、レイは碧い瞳を持っている。
アシュールの民であり、尚且つ魔法はほぼ使えない。
そんな少女の事さえもヴィルガイア本部隊は雇っている。
とはいえ、権力は本部が圧倒的に有利だ。
ヴィルガイア王国部隊にティーダ王国部隊は抗えない。
それが幸運にもクルスとレイの身を守る物となっていた。
「……教官、怒るかな。怒るに決まってるか」
横向きになるように寝返り、クルスは手のひらを見つめる。
この手で一体何を守れただろうか。
否、この手は何も役に立たなかった。
「……開いちゃったんだよな、精霊界」
非力な手だ──クルスはグッと手のひらを握り締めた。
目の前で鍵は消え、扉が開いた。
人間を憎む精霊の王をこの目で見てしまった。
抱いた感情は純粋な恐怖。
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