§106 大きな絵画に白滲む

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 まだ世界に精霊の脅威が知られていないのは、おそらく扉の位置が大陸からやや離れた無人島の真上だからだろう。  もしかしたら、精霊の侵攻は想像以上に遅いのかもしれない。  ──それでも、人間界に死が迫っているのは明らかな事実だ。 「……死ぬのかな」  小さな声で呟いてみると、恐怖が電流のように身体に流れてしまった。  まだ人々は知らない。  精霊が直ぐ隣まで迫っている事実を知らない。  死と隣り合わせとなっている事実を知らない。  クルスは固く目を閉じた。  脳裏に浮かぶのは、剣を掲げたラウドの広い背中。  『俺は、諦めねぇ』──。  ラウドは扉を見上げながらそう言った。  アイルもフィリアも諦めてはいない筈だ。  三人はおそらく今もどこかで戦っているに違いない。  そう思うとクルスは恐怖を振り払うように頭を振り、勢い良く起き上がった。  あぐらをかき、ベッドを力任せに一発だけ殴る。  クルスは眉を寄せ、白いシーツを睨み付けた。 「……──諦めてんじゃねぇよ、オレ」  シーツに埋まるその拳は微かに震えていた──。 .
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