第一章 「ごめん」と言われても困ります……

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ここで、ボーっと突っ立っている訳にもいかない。 灯りを求めて歩き出そうとした、その時。 「…………っ?!!」 突然、何かで口を塞がれた。 ドンっ!!! ガンっっ!!! 肩を掴まれ、物凄い勢いで押された為、背中を激しく打つ。 「……何で、こないな上物(じょうもん)が夜中に独りで歩いてるんや?……逢引きか?それとも、何処(どっ)からか逃げてきたんか?」 「――――っっっ!!!」 思わず目を見開くが、暗闇の中、全く相手の顔が見れない。 気味が悪い。 助けを呼ぼうと声を出そうにも、口を塞がれて声が出ない。 「……ひひ……。残念やったな。こんな夜更けに誰もおらんわ」 男はそう言うと、気配で首筋に顔を近付けてこようとするのがわかる。 男の荒い息遣いが近くに感じられたからだ。 あまりの気持ち悪さに、私は男の急所を蹴り飛ばそうとした。 ――――が、浴衣を着るのに裾除けが付いているスリップ型の下着を着た為、ロングのタイトスカートを履いているような状態になってしまい、足が自由にならない。 腕を振り回そうとするが、男に物凄い力で両手首を押さえられ、動きそうにない。 男は「……ひひ……。諦めるんやな……。悪いようには、せんさかい……な……」と、声で笑いながら言った。 (よう言うわっ!!) そう思いながら、私は口を押さえている、恐らく男の手と思われるもの、に思いっ切り噛み付く。 いや、噛み切った。 「いってーーっっ!!」 男が叫ぶ。 ――――刹那(せつな)。 押さえつけていた手が少し緩んだ。 ここぞとばかりに、私は男の手を振り払い、手に持っていた巾着袋を男の頭の辺りを目掛けて振り回す。 ガンっ!!! 「……う゛……ぁ……」 呻き声と共に物凄い音がした。 巾着の中にはスマホを入れていたから、もしかしたら『落としてもスマホが傷付かない・壊れない』との謳い文句で有名な超頑丈なケースが、思いっ切りヒットしたのかもしれない。 男が(もだ)えている間に、ここぞとばかりに逃げ出す。 「いっ……痛いやんけっ!何すんねんっ!このアマぁ!!待ちやがれぇっ!!このボケがぁっ!!大人しくしやがれぇぇぇッッッ!!」 男もなりふり構わず大声を出しながら、必死になって追いかけてくるようだ。
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