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ここで、ボーっと突っ立っている訳にもいかない。
灯りを求めて歩き出そうとした、その時。
「…………っ?!!」
突然、何かで口を塞がれた。
ドンっ!!!
ガンっっ!!!
肩を掴まれ、物凄い勢いで押された為、背中を激しく打つ。
「……何で、こないな上物が夜中に独りで歩いてるんや?……逢引きか?それとも、何処からか逃げてきたんか?」
「――――っっっ!!!」
思わず目を見開くが、暗闇の中、全く相手の顔が見れない。
気味が悪い。
助けを呼ぼうと声を出そうにも、口を塞がれて声が出ない。
「……ひひ……。残念やったな。こんな夜更けに誰もおらんわ」
男はそう言うと、気配で首筋に顔を近付けてこようとするのがわかる。
男の荒い息遣いが近くに感じられたからだ。
あまりの気持ち悪さに、私は男の急所を蹴り飛ばそうとした。
――――が、浴衣を着るのに裾除けが付いているスリップ型の下着を着た為、ロングのタイトスカートを履いているような状態になってしまい、足が自由にならない。
腕を振り回そうとするが、男に物凄い力で両手首を押さえられ、動きそうにない。
男は「……ひひ……。諦めるんやな……。悪いようには、せんさかい……な……」と、声で笑いながら言った。
(よう言うわっ!!)
そう思いながら、私は口を押さえている、恐らく男の手と思われるもの、に思いっ切り噛み付く。
いや、噛み切った。
「いってーーっっ!!」
男が叫ぶ。
――――刹那。
押さえつけていた手が少し緩んだ。
ここぞとばかりに、私は男の手を振り払い、手に持っていた巾着袋を男の頭の辺りを目掛けて振り回す。
ガンっ!!!
「……う゛……ぁ……」
呻き声と共に物凄い音がした。
巾着の中にはスマホを入れていたから、もしかしたら『落としてもスマホが傷付かない・壊れない』との謳い文句で有名な超頑丈なケースが、思いっ切りヒットしたのかもしれない。
男が悶えている間に、ここぞとばかりに逃げ出す。
「いっ……痛いやんけっ!何すんねんっ!このアマぁ!!待ちやがれぇっ!!このボケがぁっ!!大人しくしやがれぇぇぇッッッ!!」
男もなりふり構わず大声を出しながら、必死になって追いかけてくるようだ。
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