第二章 『ソウ』って誰ですか?

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「……ん……、……朝……?」 何だか騒がしいガヤガヤとした音と、燦々(さんさん)とした光が窓から入ってきて、目が覚めた。 「……眩しい……なぁ……」 目を閉じたまま、呟く。 昨日は一方的に蒼に別れを突然告げられて……。 蒼の言葉を思い出しながら、昨日の出来事を頭の中で整理しようとしてみる。 (……ん?……どないして家に帰ってきたん?……私……) 記憶が無い……、――――と言うより、曖昧だ。 考え事をしながら、ふらふらと歩いていたせいだからだろうか……。 蒼と先斗町(ぽんとちょう)で別れた後、私は独りでどうしたんだっけ? と疑問に思いながら、目を開けると。 ――――そこには、全く見覚えの無い天井があった……。 そして、右手には何かを握っている感触……。 (え!?……何……、何なん!?これっ!) 慌てて目を開き、右手を確認する。 (……黒い……、きもの……?) 私は何故か黒いきものを握り締めていた。 (……何できものなんか握り締めてるん?) 自問自答してみるが、頭の中に(もや)がかかったように思い出せない。 視線を少しずらすと、私の右手の側には黒っぽいきものを着て腕を組み、胡座(あぐら)をかいて座っている蒼が居た。 『……蒼……』と、心の中で呼んでみる。 ……ほっとした。 涙が出そうになった。 蒼がきものを着ているのは甚だ疑問だし、ここが何処(どこ)か全く分からないけれど、昨日の別れ話は全部が全部、夢の中の出来事だったに違いない。 ふと、おでこに左手をやると、(ぬる)くなったタオルっぽいものがあった。 蒼の左側には少し古めかしい木枠の桶がある。 どうやら私は熱を出し、蒼に看病してもらっていたようだ。 あの別れ話は、大方、高熱がもたらしたものであろう。 (めっちゃ悪夢やったなぁ……。けど、ほんま夢で良かったわ……) そんなことを思いながら、蒼を見る。 蒼はコクリコクリと船を漕ぎながら眠っている。 寝ていても、蒼は格好良い。 スッと通った鼻筋。 凛々しい眉と長い睫毛。 切れ長な目は今は閉じている。 日に焼けて肌の色は白くはないが、中性的な綺麗な顔立ちだ。 私は微笑みながら、呟いた。 「……蒼……。蒼が看病してくれたんやね……。ありがとう……」 お礼を言って、体を横にしたまま蒼の膝に左手を置こうとした途端、蒼の目がパチっと開いた。
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