第二章 『ソウ』って誰ですか?

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寝ていた筈の蒼の目が開き思いっ切り目が合ったので、ちょっと気恥ずかしくなる。 慌てて手を引っ込めた。 (……でも、お礼は言わなあかんし……)と、顔を蒼の方に向け、微笑んだ瞬間――――。 蒼は、開口一番、私にこう言った。 「……『ソウ』って、誰ですか?」 「……」 沈黙が訪れる。 二の句が継げない。 (……え……?『蒼』、じゃないん……?) 目を見開いた。 浮かべていた笑顔が凍りつく。 (『蒼』やなかったら誰なん?……この人……は……) 思わず布団から飛び起きた。 額からタオルではなく、固く絞られた手拭いがはらり、と蒲団の上に落ちた。 それと同時に、物凄い頭痛が私を襲う。 「……うっ……」 思わず呻いて、左手で頭を抱え込むような姿勢になった。 「……急に動かない方が良いですよ。何しろ、三日三晩、高熱にうなされていたんですから……」 蒼に良く似た、でも少しだけ蒼よりも低い感じの声が頭の上から聞こえてきた。 「……三日三晩、……も……?」 「……ええ。……覚えていませんか?」 「……」 記憶がとても曖昧だ。 高熱の副作用だろうか。 思い出そうとすると、ズキッ!ズキッ!と、頭痛が酷くなる。 余程、酷い顔をしていたのだろう。 私が黙っているのを見ると、蒼のソックリさんは、ふぅ……と溜息を()いた。 「……取り敢えず、ゆっくりして下さい。見た感じ、まだ、本調子では無さそうですし」 そう言って、彼は私の背中に手を触れ、ゆっくりと体を倒して寝かせてくれようとする。 その瞬間、私の体がビクっ!と反応した。 体が突然、ぶるぶると震え出す。 (……え……。……何?……何なん?……この反応……) 震えが止まらない自分の身体に驚愕する。 いくら蒼ではないソックリさんだとしても、この反応はあまりにも失礼だろう。 『ごめんなさい!貴方が悪い訳や無いんですっ!……なんや分からへんけど、身体が勝手に震えてしまって……』 声に出して説明して謝ろうと思うのに、震えてしまって声が出ない。 「……身体が辛そうだったので手を貸したつもりだったんですが……。女人の身体に何の断りもなく触れるなんて私が軽率でした……。……失礼しました」 謝るべきは明らかに私の筈なのに、蒼のソックリさんは、すっと自分の身体を引き頭を下げて謝った。 「……い……、……え……」 全身がカタカタと震えているせいで、これだけの言葉を発するのが、やっとだった。
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