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「それは良かったです」
にっこりと笑顔を浮かべるソックリさん。
穏やかな時間が過ぎていく……。
何だか温かい落ち着いた雰囲気が私達を包んでいた。
(それにしても……)
「……あの……つかぬことをお訊ね致しますが……」
「はい。なんでしょうか?」
「この白い飲み物は何でしょうか?」
「あぁ。甘酒ですよ」
「……甘酒?」
思わず、首を傾げる。
(何で、甘酒……?『冬』でも『ひな祭り』でもないのに……)
「はい。実は僕、昨年の夏に酷い麻疹にかかったんです」
話を聞きながら、正体の分かった甘酒を戴く。
これまた、とても美味しい。
私は甘酒に夢中で気もそぞろだったが、ソックリさんはあまり気にしていないようだ。
そのまま話を続けていった。
「その時、甘酒を飲んでいて。甘酒は栄養価が高いですからね。江戸では夏によく飲むんです……京では違うのですか?」
まぁ今はまだ夏ではありませんけど貴女に少しでも早くに元気になってもらいたくて……と、ソックリさんは、はみかみながら、ぽりぽりと頬をかき答えた。
(――――っだから!その蒼と同じ表情せんといて!……弱いんやからっ!!)
そう思いながら、ソックリさんの言った言葉を反芻する。
確かに甘酒は美味しくて栄養バランスも満点……。
(――――って、そうやなくて!!)
思わず、自分でツッコんだ。
今、ソックリさんは何と言ったのか。
何だか可笑しなことを言っていた。
(確か……)
確認の為、聞き直す。
「……え……と…………今、何て?」
「『甘酒は栄養価が高いから早く元気になって欲しい』と……」
「……あ……。そこやなくて……。確か『まだ夏やない』と……」
「ええ。夏も近いですから、夏みたいな陽気の日もありますけど、季節はまだ春ですから」
と、ソックリさんは答えた。
(……え……。何か……変……)
私が三日三晩寝込んだのが本当であれば、私は、三日程前に蒼と宇治川花火大会へ行った筈だ。
勿論、季節は真夏だった……。
真夏に甘酒を飲むと言うのも何だかぴんと来ないが、今の季節が『春』という方が気になる。
恐る恐る聞いてみる。
「……あの……寝込んでしまっていたせいやと思うんですけど、なんや記憶が混沌としていて……。今日の日付は……?」
「弥生の二十八日です」
(……『弥生』……?)
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