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確か、旧暦の三月だ……。
旧暦の三月なら、現代の暦だと四月の終わりから五月の半ば辺りだろうか。
確かに、ソックリさんの言う通り、初夏を感じる陽気ではある。
ただ……。
現代で、わざわざ日付を旧暦で言う人は居ない……。
しかも……。
さっきは甘酒に気を取られて聞き流してしまったのだが、先程ソックリさんは『江戸』とか『京』とか言っていた気がする……。
少なくとも、明治初期に『江戸』は『東京』になった筈だ。
――――ということは、今この時は『明治以前』なのだろうか……。
俄には信じ難い。
「……元号は?」
思わず『西暦は?』と聞きそうになったが、今が明治以前と考えるなら『元号』で尋ねた方が良い、と判断した。
「文久三年ですが……?」
流石に何か変だ、と感じたのか、眉間に皺を寄せてソックリさんは答えた。
「…………ぶんきゅう三年……」
そのまま、繰り返すように呟く。
それは一体いつだろう?
どんな字を書くのだろう?
元号なんて、続けて空で言えるのなんて、明治以降だ。
後は、『大化の改新』の『大化』とか『応仁の乱』の『応仁』とか。
もう少し近い時代で言えば、江戸時代の『享保の改革』『天保の改革』の『享保』『天保』とか、『安政の大獄』の『安政』とか……。
高校時代、世界史を選択していた私の日本史の記憶なんて、その程度のものだ。
ある出来事と元号が一緒になった『特別な出来事』が存在しない限り、今この時が、一体、何時の時代なのか分かりようがない。
とにかく、夢か何かは分からないが、今この時が現代ではなく『明治』以前なのではないだろうか――――。
などと考えていると。
「……あの。……大丈夫ですか?……少しまた顔色が悪いようですけど……」
呟いたまま急に黙り込んでしまった私をソックリさんは心配そうに見ていた。
「えっ?!ほんまですか?甘酒があまりにも美味しいから、どないして作ってはるんか考え込んでしまって……。……あ、そう言えばっ!お名前。貴方のお名前っ!まだお聞きしてへんかったですよねっ!」
今日の日付なんて聞いてへんで先ずはお名前尋ねへんと……、と言いながら咄嗟に話題を変えた。
些か、怪しかっただろうか。
夢かもしれない。
ただこの身体の痛みは、どう説明する?
痛みは普通の夢なら感じない。
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