第二章 『ソウ』って誰ですか?

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……自分の置かれた状況にどうしたら良いか、分からない。 ただ、少なくとも熟考もせずに、私が置かれている状況を気付かれてはいけないような気がした……。 少し強引ではあったが、自然と話題を変えることは出来ただろうか……。 ソックリさんは、あまり気にもしていないかのように、 「そう言えば、そうでしたね」 と、にこやかに言った。 「こちらこそ、助けていただいているのに、先に名乗らへんなんて大変失礼しました。私の名前は『月』です。お月さんの『月』と書きます」 両手をついて頭を下げる。 「……僕の名前は、お…………」 と、ソックリさんが答えようとした、その時――――。 「…………っ!……………………っ!」 襖の向こうから大きな叫び声が聞こえてくる。 一体、何事だろうか。 すると、スパーンっ!と勢いよく(フスマ)が開いた。 「ソウジ!この間の女子(オナゴ)が目覚めた、ていうのは、本当かっ?!」 そう大声で叫びながら一人の男性が入ってきた。 ベース型の顔に、キリッとつり上がった余り大きくない目。全体的に強面(コワモテ)の印象だ。 この人も、きものを着ていた。 色はソックリさんのとよく似ていて、藍色だ。 が、着流しではなく袴も穿()いている。 竹刀を持っているところを見ると、剣道の練習でもしていたのだろうか。 そう言えば、先程から外が騒がしかった。 それなら、このきものは道着なのだろう。 ただ一つの点を抜かせば、そんなに不思議に思うことも無かったのだが……。 彼は(マゲ)を結っていた。 ……髷。 ――出たよ。 出ましたよ、髷。 月代(サカヤキ)は無いが、頭頂部で髷を結っている。 現代では、相撲取りぐらいしか結わない髷。 この人が相撲取りには、到底思えない。 (相撲に竹刀は要らへん……やんなぁ……) 『散切(ザンギリ)頭を叩いてみれば、文明開化の音がする』
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