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……自分の置かれた状況にどうしたら良いか、分からない。
ただ、少なくとも熟考もせずに、私が置かれている状況を気付かれてはいけないような気がした……。
少し強引ではあったが、自然と話題を変えることは出来ただろうか……。
ソックリさんは、あまり気にもしていないかのように、
「そう言えば、そうでしたね」
と、にこやかに言った。
「こちらこそ、助けていただいているのに、先に名乗らへんなんて大変失礼しました。私の名前は『月』です。お月さんの『月』と書きます」
両手をついて頭を下げる。
「……僕の名前は、お…………」
と、ソックリさんが答えようとした、その時――――。
「…………っ!……………………っ!」
襖の向こうから大きな叫び声が聞こえてくる。
一体、何事だろうか。
すると、スパーンっ!と勢いよく襖が開いた。
「ソウジ!この間の女子が目覚めた、ていうのは、本当かっ?!」
そう大声で叫びながら一人の男性が入ってきた。
ベース型の顔に、キリッとつり上がった余り大きくない目。全体的に強面の印象だ。
この人も、きものを着ていた。
色はソックリさんのとよく似ていて、藍色だ。
が、着流しではなく袴も穿いている。
竹刀を持っているところを見ると、剣道の練習でもしていたのだろうか。
そう言えば、先程から外が騒がしかった。
それなら、このきものは道着なのだろう。
ただ一つの点を抜かせば、そんなに不思議に思うことも無かったのだが……。
彼は髷を結っていた。
……髷。
――出たよ。
出ましたよ、髷。
月代は無いが、頭頂部で髷を結っている。
現代では、相撲取りぐらいしか結わない髷。
この人が相撲取りには、到底思えない。
(相撲に竹刀は要らへん……やんなぁ……)
『散切頭を叩いてみれば、文明開化の音がする』
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