第三章 「……ここは何処?私は……月です……」

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近藤さんは私を元気付けるように明るく微笑んで言った。 「…………そ……それが…………」 「……まさかとは思うが、それも記憶に無い……と……?」 近藤さんの声が少しばかり、強張ったのが分かった。 「…………す、……すいません……」 頭を下げる。 顔が上げられない。 もうこうなったら、ひたすら謝るしかない。 本当のことを言っても信じてもらえる訳がないし、下手な嘘を言って墓穴を掘るわけにもいかないからだ。 出身地一つをとってみても――――。 頭に一つの歴史用語が浮かぶ。 『廃藩置県』 明治維新で維新政府が行った功績の一つだ。 今が幕末ということは、当然、廃藩置県以前だ。 時代が違うのだから出身地名も違ってくる筈だ。 基本的なことだが……藩名が分からない……。 例え分かったとしても、もし、此処にその藩の出身者が居たら? ボロが出るのは、火を見るよりも明らかだ。 不審人物になろうが、私は記憶喪失になる方が良いのだ……。 「…………」 流石の近藤さんも返す言葉が無いらしい。 当然だ。 目の前に『記憶喪失』になってしまったという人物が居るのだから……。 再び、沈黙が訪れた。 静寂を破ったのは、沖田さん、だった。 「……彼女が覚えていない、というのであれば、それが事実なのでしょう。あれだけの高熱だったんですから、致し方の無いことなのかもしれません。それに『月』と言う名前は、覚えているじゃないですか。大丈夫ですよ」 顔を上げて沖田さんを見ると、沖田さんは私に頷いて微笑みかけるように、にっこりと笑った。 ……うっ…………。 そんな蒼ソックリの笑顔を向けられると、胸が痛い……。 「……まぁ、それにしても、だ」 再び、近藤さんが口を開く。 「記憶に関しては、総司の言う通りかもしれんな。……ただ、お月殿。……これから、貴女はどうするつもりかな?記憶が戻れば、元の場所に帰ることも出来るだろうが……」 近藤さんは、とても言いにくそうに言った。 「…………」 ……そうなのだ。 私は、これから、どうすれば良いのだろう……。
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