第一章 「ごめん」と言われても困ります……

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### ――――約一週間前。 前期試験も無事に終わり、蒼と私は夏休みを満喫していた。 ……なんてことはなく。 休み明けにゼミで発表しなくてはいけないテーマについて、調べものをしに大学の総合図書館に来ていた。 この総合図書館だが、かなり広い。 キャンパス内に各学部専用図書室もあるが、ここには最新の雑誌や書籍は勿論のこと、『門外不出・持出厳禁』と判の押されたかなり古い珍しい文献まで保管してたりする。 言語も日本語・英語に限らず、ドイツ語やフランス語等、分野に至っては自然科学系から人文科学系、社会科学系まで古今東西、多種多様なものを取り揃えてあった。 従って、学部専用図書室だと保管されていないものが、この図書館にはあったりする。 学部専用図書室に行っても、お目当ての本が無く総合図書館へ……なんてことはよくある話で、結局、二度手間になってしまうので、探しものをするには、この総合図書館の方が適していた。 ただ、地下4階、地上3階、屋根裏(?)2階分の収納スペースと閲覧スペースは、想像を絶する広さになる。 膨大な量の文献やら書籍を保管しているのだから、当然と言えば当然なのだが……。 検索機能は全てコンピューター化されているとはいえ、レポート等のコピペを防ぐ為、全文書自体が電子化されているわけではない。 画面に表示される実際の検索結果は大まかな場所しか分からず、現実に色んな本を探すとなると、館内を歩き回る羽目になる。 『門外不出』の貴重な資料になると、地下の更に特殊なところへ、と。 かなり古い文献は屋根裏の本棚が自動に動く自動保管庫へ、と。 それぞれ入らなくてはならず、こういったものは閲覧し終えるまで、その場所から出てこれない。 実際『持出厳禁』と判の押された資料も多々あり、資料集めも、かなり大変な作業になるのだ。 蒼と私は朝からこの広大な館内を、お目当ての本をあちらこちらと探し求めたせいか疲れ果ててしまい、休憩がてら、お昼ご飯を食べに構内にあるカフェテリアに来ていた。 「なあ……。(ツキ)、きもの着てきてよ」 蒼は何を思ったのか、昼食であるカレーを食べながら突然言い出した。 「……きものって?……何で?」 余りに突然すぎて会話に付いていけない私は、(いぶか)しげに蒼の顔を見る。 「『何で?』って……。月の浴衣姿見たいんだよ。な、いいだろ?」
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