第三章 「……ここは何処?私は……月です……」

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そして、少し着崩れていた浴衣を着直し、綺麗に畳まれていた半幅帯を手にし再び文庫結びにした。 次は髪型だ。 江戸時代の髪型は、日本髪だ。 幕末であっても、それは変わらない。 もしかしたら、これが今、一番問題かもしれない……。 (……どないしよう……) 曲げた人差し指を唇に当てて考える。 昔、母が言っていたことを思い出したのだ。 ――――確か、江戸時代の女性の髪型は色んな種類があり、身分や年齢、既婚・未婚などによっても違っていた、と。 しかも、地域によって流行が違ったらしい。 流行に関しては、現代でも服飾全般に地域性があるのは、普通のことだ。 ましてや、幕末。 現代とでは、情報の速度・流通量が違う。 当然、江戸と上方では流行っているものが違うだろう。 それは仕方無い、のだが……。 私が唯一知っている日本髪は『文金高島田』だ。 この髪型、現代では花嫁さんの髪型だ。 しかしながら、【幕末】ではどうなのだろう……。 あの髪型は誰が結うのか……。 武士の奥さん?町娘?それとも、芸者さん? ……さっぱり分からない。 しかも、あんな複雑なもの、当たり前だが、私が一人で結えるわけが無い。 『産まれ育った場所や身分が特定出来そうなもん、下手に結えるわけがないやないの!!しかも、複雑過ぎて構造がどないなってんのかも、よく分かんないしっ!』 下手に疑われる芽を自分から率先して蒔く必要はない。 ――――かと言って、結わないのも変だ。 取り敢えず、前髪だけは上に上げて『ポンパドール』にしてはみたものの……。 どうしたら良いか分からなくなる。 『前門の虎 後門の狼』って、こんな気分なのだろうか……。 ……日本髪、なんて。 (なんでそんなもん発達したんやぁぁぁっっ!!) と、完全に八つ当たりとも思える――日本文化を研究している人達が聞いたら怒りそうな――台詞を私は心の中で叫んだ。 私が髪型をあれこれと悩んでいる内に、結構な時間が経っていたらしい。 (フスマ)の向こうから 「お月さん。沖田です。開けますね」 と、声が聞こえた。 「っえ?!……あ、ちょっ……」 返事をする間もなく、襖が開いた。 「…………」 沖田さんは私の姿を一瞥(イチベツ)するなり、目を見開いて絶句する。
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