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前髪だけはポンパドールにしているのだが、他の部分は今までアップにしていたこともあって、変な癖がつき、あちらこちらにとはねまくっているのである。
要するに、髪の毛各々が自己主張して、爆発しているような状態なのだ。
せめて身嗜みを整えようと思った筈なのに、絶句させてしまうとは……。
「……どうしたんですか?……その髪……」
沖田さんは手で口を押さえ、目線をすっと私から逸らした。
肩が小刻みに揺れているせいで、笑いを堪えて話しているのが分かる。
気を遣って目線を外してくれたのかもしれないが笑っているのは、バレバレだ。
(めっちゃ恥ずかしいやんか……。そんなんやったら大声で笑ってくれた方がよっぽどええわ……)
寧ろ、その方がいっそ気分も清々しい。
そんなお笑い芸人みたいなことを考えながら返事をした。
「そ……それが……」
「もしかして……結えないんですか?」
「…………」
ご明察。図星だ。
なんて勘が鋭い。
「簡単なもので良いのですよ?此処に髪結いさんが居る訳じゃありませんし」
とは言ってくれるのだが。
どう結ったら良いのか分からない。
「……そんなとこまで、記憶が無くなっちゃったんですねぇ……」
と、沖田さんは半ば呆れ気味、半ば感心したように言った。
「す……すいません……」
「お月さんが謝ることではありませんよ。――私ので申し訳無いですけれど、取り敢えず、これを使って後ろで一つにまとめて下さい」
と言って、袂から藍色の紐を渡してくれた。
私がその紐で沖田さんを真似てポニーテールのように結うと、彼の笑いもどうにかおさまったようだ。
そして、
「――――お月さん。もし浴衣のまま、皆さんに会うのに抵抗があるなら、僕の羽織をお貸しますが、どうされますか?」
と訊ねられた。
本音を言えば、私はどちらでも構わなかったのだが、浴衣は昔、湯上がり時に着るものだったことを思い出す。
目上の人に会う際に浴衣を着用しているのは、この時代、もしかしたら失礼に当たるのかもしれない。
浴衣を着用していることに変わりはないが、羽織で隠す方が幾分かマシかもしれない、と思う。
私は、素直に借りることにした。
沖田さんは直ぐに羽織を取ってきてくれ、それを羽織ってみたのだが……。
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