1036人が本棚に入れています
本棚に追加
――ブカブカだ。
当然だが……かなり大きい。
視線を沖田さんの方に向けて思う。
彼はこの時代の人間にしては珍しく大きいのではないだろうか。
江戸時代の男性の平均身長は160cm無かったそうだ。
私の身長が158cmなのだが、大体同じ位だったと記憶している。
自分の記憶と感覚に頼ることになるが、蒼と沖田さんは身長も同じ位だと思う。
(――憶測やけど175cm位はありはるんちゃうやろか)
私が彼の羽織を着て、ブカブカになるのは当たり前なのだ。
羽織に着られている感満載ではあるが、元々羽織の下から浴衣が覗くという、奇妙な見た目なので、ここはもう深くは考えないことにした。
私が羽織を着終わったのを確認すると、沖田さんは先程とは違う少し引き締まった声で、
「それでは、先生方を長々とお待たせてもいけませんので、早く行きましょうか」
と言った。
******――******
「つい先日、僕達は斜め向かいの『八木さん』のお宅から移ってきたばかりなんですよ」
と、沖田さんは廊下を歩きながら、此処の説明してくれた。
「ヤギさん?」
オウム返しのように聞き返す。
ヤギさんとは一体誰のことだろう?
「上京した時から僕達に住まいの一部を貸して下さっている方です。今は、壬生……僕達の仲間と八木さん一家が住んでいるんですけどね。此処は、前川さんという方の家で、この家も借りているんです」
この『マエカワさん家』は、かなり広いお宅のようで、中の廊下がまるで迷路のように感じる。
先程まで居た部屋に戻ろうと思っても、一人だと確実に迷子になる自信がある……。
「マエカワさん達も一緒に暮らしてはるんですか?」
もしマエカワさんも一緒に住んでおられるなら、此処に置いて貰うには、その方々の許可も必要なのではないかと、ふと思った。
「いえ。前川さん一家は他の場所に移られました。だから、今は僕達しかいません。――蔵もあるし……大きなお宅ですよね」
と、沖田さんは沁々と言う。
「え?!蔵まであるんですか?!」
思わず目を見開いて驚き、大きな声が出てしまった。
――が、江戸時代、裕福な庄屋などは蔵ぐらいあったのかもしれない、と思い直す。
「ええ。――とは言っても、僕も中まで見た訳ではありませんが……。それに、此処の御宅、畳の総数は百五十畳近くもあるんですよ」
「ひゃ……百五十畳っ?!」
今度は、声が裏返った。
最初のコメントを投稿しよう!