第三章 「……ここは何処?私は……月です……」

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――ブカブカだ。 当然だが……かなり大きい。 視線を沖田さんの方に向けて思う。 彼はこの時代の人間にしては珍しく大きいのではないだろうか。 江戸時代の男性の平均身長は160cm無かったそうだ。 私の身長が158cmなのだが、大体同じ位だったと記憶している。 自分の記憶と感覚に頼ることになるが、蒼と沖田さんは身長も同じ位だと思う。 (――憶測やけど175cm位はありはるんちゃうやろか) 私が彼の羽織を着て、ブカブカになるのは当たり前なのだ。 羽織に着られている感満載ではあるが、元々羽織の下から浴衣が覗くという、奇妙な見た目なので、ここはもう深くは考えないことにした。 私が羽織を着終わったのを確認すると、沖田さんは先程とは違う少し引き締まった声で、 「それでは、先生方を長々とお待たせてもいけませんので、早く行きましょうか」 と言った。 ******――****** 「つい先日、僕達は斜め向かいの『八木さん』のお宅から移ってきたばかりなんですよ」 と、沖田さんは廊下を歩きながら、此処(ココ)の説明してくれた。 「ヤギさん?」 オウム返しのように聞き返す。 ヤギさんとは一体誰のことだろう? 「上京した時から僕達に住まいの一部を貸して下さっている方です。今は、壬生(ミブ)……僕達の仲間と八木さん一家が住んでいるんですけどね。此処は、前川さんという方の家で、この家も借りているんです」 この『マエカワさん家』は、かなり広いお宅のようで、中の廊下がまるで迷路のように感じる。 先程まで居た部屋に戻ろうと思っても、一人だと確実に迷子になる自信がある……。 「マエカワさん達も一緒に暮らしてはるんですか?」 もしマエカワさんも一緒に住んでおられるなら、此処に置いて貰うには、その方々の許可も必要なのではないかと、ふと思った。 「いえ。前川さん一家は他の場所に移られました。だから、今は僕達しかいません。――蔵もあるし……大きなお宅ですよね」 と、沖田さんは沁々(シミジミ)と言う。 「え?!蔵まであるんですか?!」 思わず目を見開いて驚き、大きな声が出てしまった。 ――が、江戸時代、裕福な庄屋などは蔵ぐらいあったのかもしれない、と思い直す。 「ええ。――とは言っても、僕も中まで見た訳ではありませんが……。それに、此処の御宅、畳の総数は百五十畳近くもあるんですよ」 「ひゃ……百五十畳っ?!」 今度は、声が裏返った。
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