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「きものと浴衣はちょっと、ちゃうんやけど……。何かあるん?……まさか、大学に着てきて欲しいって言ぅてる訳ちゃうやんなぁ……?」
普通、浴衣と言えば、夏祭りや花火大会に着ていくものだろう。
いくら今が夏休みとはいえ、大学に浴衣姿で現れたら皆に奇異な目で見られることは間違いない。
『きもの』なのか『浴衣』なのか分からないが、突然『着て欲しい』とお願いするということは、どこかに行くつもりだからだろうか。
そう思って、蒼に聞いてみれば。
「んー?……いや、だって、さ。月、きもの似合うじゃん」
耳を疑う台詞が返ってきた。
思わず「――――えっ!?」と聞き返してしまう。
蒼が私を褒めるなんてことは、滅多に無い。
ましてや、容姿を褒められたことなんて初めてだった。
思わず頬が赤くなってしまったのが、自分でも分かる。
そんなに蒼が着てきて欲しいなら、『きもの』でも『浴衣』でも暑いなんて文句言わずに快く着てあげよう!と、思った瞬間――――。
「いや、だってさ。ほら、きものって身体が寸胴の方が似合うんでしょ?」
暴言を吐いてきた。
「……」
果たして、蒼は本当に『きもの』ないしは『浴衣』を私に着て欲しいのだろうか……。
確かに、私は【ボンっ・キュっ・ボンっ】となった所謂欧米型のくびれのある体形ではない。
そして、きものは凹凸の無い体の方が、着崩れしにくいのも事実だ。
それは認めよう……。
だが!
しかしっ!
蒼にそんなことを言われる筋合いはない。
私は思わず、蒼を思いっきり睨み付けた。
出来れば、真向かいに座っている蒼の足を思いっ切り蹴飛ばしたいくらいだ。
私から漂う殺気?に、流石の蒼も(……マズイ)と感じたらしい。
直ぐに本題に入ってきた。
「……というのは、冗談で、さ……。今度、花火大会があるんだって」
「……」
機嫌の直らない私は無言を貫き、カルボナーラをフォークでくるくるっとした後、口へと運ぶ。
「―――っだから!月の浴衣姿が見てみたいなぁ……なぁーんて、思っちゃった訳だよ。……俺はっ!」
半分開き直ったのか、いつもよりも早い口調で爽やかに言い「ははっ!」と笑う。
そして、蒼は上目遣いで私の顔を見た。
自分で言っていてかなり恥ずかしくなって照れたのか、頬も耳も少し赤くなってる。
(――――っ!)
……う…………ぅ…………。
この目は卑怯だ……。
はにかんだように……照れを隠した、頼み事をする時の、蒼の目……。
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