第一章 「ごめん」と言われても困ります……

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(……っ……!男のくせに、そんな表情せんといてよ!) 思わずツッコミたくなる。 「…………何処(どこ)であるん?……その花火大会……」 (あかん……。この表情には勝たれへん……) 内心溜め息をつきながら、私は返事をしたのだった……。 ### ――――八月某日。 私達は宇治川花火大会に一緒に行くことになった。 勿論、蒼ご希望の浴衣を着用して。 元々、母親がきもの好きだったこともあり、私自身、きものを着ることは出来るし、自分で着付けが出来るので苦しくなることがなく苦にならない。 ただ、いくら()(しゃ)のような夏用のきものであっても、長襦袢(ながじゅばん)を着る分、浴衣よりは確実に暑くなるので、『花火見物』という目的に合わせる為にも浴衣を着ることにした。 白地に紺の蝶柄。 赤やピンク、地色が紺でも模様が色とりどりの浴衣がある中で、どちらかと言うとかなり地味な浴衣だ。 半幅帯は赤と黄色のリバーシブルになっていて、赤を基本に黄色を少しだけ出して、文庫型に締めた。 髪型は迷ったがアップにして、赤とピンクの縮緬(ちりめん)(かんざし)を付ける。 久し振りの浴衣姿だが、蒼が見るのは初めてだ。 (蒼は、何て思うんやろか……?) そんなことを考えると、何だかドキドキしてきた。 私は熱くなった頬を冷まそうと、頭を左右に振る。 下駄で靴擦れのような状態になってもいけないので、消毒液と絆創膏を巾着袋の中に入れた。 後は、スマホ、虫除けスプレー、ハンカチ……etc. それぞれ、手提げと巾着に分けて入れていく。 (――――よし、これで準備オッケーやねっ!完璧っっ!!) 最後に姿見で自分の全身の姿を見ながら、心の中で呟いた。 ### 蒼とは、JR京都駅で待ち合わせていた。 「……」 蒼は私の浴衣姿を見るなり目を見開いた。 そして、(しばら)くの間、呆けたように無言を貫いている。 「……」 「……」 余りに無言が続くので、何だか少し不安になり、 「……え……何?何なん?……もしかして思ぅたよりも似合(にお)うてへんの?……蒼的には微妙って感じ……なん?」 と、聞いてみると、蒼は私の言葉にハッと我に返ったように慌てて答えた。 「――――え?!……あ……いや、その……勿論、似合ってる……よ……」 そう言うと、手を口許(くちもと)にやり、私から顔を背け目線を完全に外す。 蒼にお世辞を期待してたわけじゃないが、顔まで背けられるのは何だか寂しい。
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