第一章 「ごめん」と言われても困ります……

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今日は、比較的夜遅くまで開いている居酒屋さんに来ていた。 居酒屋さんといっても、バー的な雰囲気もある、こ洒落たお店だ。 店内は入り口は狭いが、奥へ奥へと広がっていく造りになっていて、いかにも京都らしい。 私と蒼は鴨川が見える奥の方の位置ではなく、比較的、出入り口に近い場所に座った。 つまり、私と蒼はこの日、花火大会に一緒に行き、帰りには仲良くご飯を食べるという、一般的なデートを満喫していたのである。 ……いや、その筈だった。 少なくとも、私はそう思っていた。 この時まで――――。 それなのに……。 ……何なんだろう……? 今の、この状況は――――。 「……ごめん……」 「……」 「……ごめん……」 「……」 「……ごめん……。……本当にごめん――――」 相変わらず、蒼は私と目を合わせようとしない。 ずっと目線は下を向いたままだ。 (……なんで、こんなことになったん?) 私は今までのことを思い返す。 夕飯を食べ終わった後で蒼はおもむろに『話がある』と切り出し、私に告げたのだ。 『もう一緒には居られない』 と――――。 「……」 私は何か自分でも気が付かない内に、蒼に対して酷いことをしていたのだろうか。 別れを切り出される程の――――。 でも、いくら考えても、何故、突然、蒼がそんなことを言い出したのか、見当もつかない……。 自分で考えても分からない以上、蒼に聞くしか分かる方法は無いのだ。 「……私、何か悪いことでもしたん?それやったら()ぅて?……()ぅてくれへんと、なんでなんか分からへんわ……」 「……月が悪いわけじゃない……。……どっちが悪いとか、そんなんじゃないんだ……」 益々、訳が分からない。 この歯切れの悪さは何だろう? 何か言いにくいことでも、あるんだろうか? 「……何で、突然、そんなこと思ぅたん?」 蒼の気持ちを知るべく、なるべく優しい口調で促すよう聞いてみる。 すると、思いもかけない返事が返ってきた。 「……突然じゃない……、よ……」 『トツゼン、ジャナイ』 衝撃だった。 ハンマーで突然、頭を思いっ切り力任せに殴られた気がした。 『寝耳に水』の答えが返ってきたのだ。 蒼の(こた)えに、思わず目を見開く。 心臓が突然、早打ちをし始めた。 変な汗をかき、自分の身体が固まったのが分かった。 蒼には『突然』じゃなかったにせよ、私には『突然』だった。 蒼は考えていたのかもしれないが、私はそんなこと……考えもしなかった。 瞬きも忘れ、目を見開いたまま、思考が停止した。 脳が考えることを拒否する。 (……声が、……出ぇ……へん……) 頭上の電球が消え、突然、目の前が真っ暗になった気がした。
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