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今日は、比較的夜遅くまで開いている居酒屋さんに来ていた。
居酒屋さんといっても、バー的な雰囲気もある、こ洒落たお店だ。
店内は入り口は狭いが、奥へ奥へと広がっていく造りになっていて、いかにも京都らしい。
私と蒼は鴨川が見える奥の方の位置ではなく、比較的、出入り口に近い場所に座った。
つまり、私と蒼はこの日、花火大会に一緒に行き、帰りには仲良くご飯を食べるという、一般的なデートを満喫していたのである。
……いや、その筈だった。
少なくとも、私はそう思っていた。
この時まで――――。
それなのに……。
……何なんだろう……?
今の、この状況は――――。
「……ごめん……」
「……」
「……ごめん……」
「……」
「……ごめん……。……本当にごめん――――」
相変わらず、蒼は私と目を合わせようとしない。
ずっと目線は下を向いたままだ。
(……なんで、こんなことになったん?)
私は今までのことを思い返す。
夕飯を食べ終わった後で蒼はおもむろに『話がある』と切り出し、私に告げたのだ。
『もう一緒には居られない』
と――――。
「……」
私は何か自分でも気が付かない内に、蒼に対して酷いことをしていたのだろうか。
別れを切り出される程の――――。
でも、いくら考えても、何故、突然、蒼がそんなことを言い出したのか、見当もつかない……。
自分で考えても分からない以上、蒼に聞くしか分かる方法は無いのだ。
「……私、何か悪いことでもしたん?それやったら言ぅて?……言ぅてくれへんと、なんでなんか分からへんわ……」
「……月が悪いわけじゃない……。……どっちが悪いとか、そんなんじゃないんだ……」
益々、訳が分からない。
この歯切れの悪さは何だろう?
何か言いにくいことでも、あるんだろうか?
「……何で、突然、そんなこと思ぅたん?」
蒼の気持ちを知るべく、なるべく優しい口調で促すよう聞いてみる。
すると、思いもかけない返事が返ってきた。
「……突然じゃない……、よ……」
『トツゼン、ジャナイ』
衝撃だった。
ハンマーで突然、頭を思いっ切り力任せに殴られた気がした。
『寝耳に水』の答えが返ってきたのだ。
蒼の応えに、思わず目を見開く。
心臓が突然、早打ちをし始めた。
変な汗をかき、自分の身体が固まったのが分かった。
蒼には『突然』じゃなかったにせよ、私には『突然』だった。
蒼は考えていたのかもしれないが、私はそんなこと……考えもしなかった。
瞬きも忘れ、目を見開いたまま、思考が停止した。
脳が考えることを拒否する。
(……声が、……出ぇ……へん……)
頭上の電球が消え、突然、目の前が真っ暗になった気がした。
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