第3話

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 テレビの音が消えると、部屋の中は無音になる。強いていえば、コップの中から浮かび上がってくる小さなツンちゃんの泡が音になって聞こえているだけだ。 ( ^ω^)「疲れたお」という僕の呟きは、おそらく一人暮らしの人間なら誰にでも口にする言葉で、こんなことを考える僕はおそらく一人暮らしではないのだけれど、その「疲れたお」は「なにか面白いことでもないかお」という言葉と一緒だということぐらいは知っている。  そうやって暗くなるまで窓からぼんやりと外の景色を眺めていると、ふとバイブレータが携帯電話の着信を告げた。見てみると、どうやらドクオからメールがきたらしい。本文に一言だけ、「高架線で待ってる」とのこと。 ( ^ω^)「面倒くさいお」といった僕の独り言は、きっと不意に入った予定に対する嬉しさとやるせなさの両価感情を上手く表現した心の叫びで、実際こんなことをいちいち考えているのかというのは怪しいものだけれど、この「面倒くさいお」は「なにか面白いことでもないかお」という言葉の順当な対偶である云々などの事実ほどに自分でも思考に収拾がつかない。  ツンちゃんの隣に高く積まれた読みふるしの本の一冊を手に取って、僕はその表紙に『純粋ツンちゃん批判』と書かれているのを認めると、本の平らな部分で体操座りのツンちゃんの頭を軽く叩いた。 ( ^ω^)つ ξ ⊿゚)ξ ?  ツンちゃんは怪訝な視線を僕へ投げかけていた。スコーンともパコッともぽふっとも似つかない音を鳴らす彼女のまあるい頭は、二十時からのバラエティ番組で紹介される民族楽器の着想の元であると一般には知られている。  けれど、それが少女の頭だということは僕を除いて誰にも認知されていない。 ( ^ω^)ノ「それじゃあ、まア、いってくるお」 ξ ⊿゚)ξ  コップの中には居ない彼女にそれだけ言って、僕だけが部屋を出た。
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