平凡な新人と正直な変人

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その日の夜、トーク番組の収録が始まった。大御所のお笑い芸人、淡路屋いわし師匠が司会の人気トーク番組だ。 ひな壇に座ったのは、これが初めてだった。紹介を受けて喋った時はどもったが、いわし師匠がうまくフォローしてくれた。 「(高宮さんの言った通りだった)」 そうして収録は無事に進んで行った。放送時間1時間弱の番組だが収録時間は3時間、4時間と延びて行った。 「(トーク番組ってこんなに収録時間が延びるんだな)」 いわし師匠の話が面白く、周りのゲストの人達も楽しい雰囲気だったので、長時間ではあったが苦痛ではなかった。 「じゃあ、最後…ムツコさん」 いわし師匠の指名を受けた女性がおもむろに立ち上がる。 「な、なんやなんや?」 「収録時間長すぎんだよ!一体何時間収録するつもりだよ!」 女性の叫びに周りのゲストの空気が凍った。それは、新人の僕にでも分かる雰囲気だった。 「いやいやいや、分かるで?けどもうすぐ終わるから、君の話で終わるから、じゃあ…」 「もういいよ!喋んねぇよ!私帰るよ!」 そうして、憤った女性は収録現場を去っていった。 この後、収録された中で再編されて番組は無事に放送されたが、あの女性は一体どうなったのだろう 僕は、なぜかそれが気になった。
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