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「高宮さん、高宮さん」
「どうかしました?」
「あのね、この前さ。いわし師匠のトーク番組あったじゃない?」
「あ、ありましたね」
「あの時さ、収録時間が長くなって現場を飛び出した女の人いたでしょ」
「あぁ、いましたね…」
高宮さんの顔が少し曇ったような気がしたが、今回ばかりはどうしても気になったので、話を続けた。
「あの人、誰?」
「あの人ですか?そんなこと聞いてどうするつもりですか?」
「いや、別にどうするつもりもないけど、なんか気になったから」
「あの人はムツコ・スラックスさんっていう、マツヨ・デラックスさんのお弟子さんですよ。女性なんですけどね、なぜかおネェのマツヨさんに弟子入りして、変わった人ですよね」
「ムツコ・スラックス…」
思わず、僕は吹き出しそうになったが、それをガマンして話を続けた。
「あんなことしたら、もうあの番組には呼ばれないよね」
「そうですねぇ、あの温厚ないわし師匠もさすがに怒ってましたからねぇ…」
よくは見えなかったが、チラッと見たムツコさんの顔は美人だった気がした。
「もう会えないのかなぁ…」
僕は、ボーッと宙を見つめながら、あの時のムツコさんを思い浮かべていた。
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