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「ちょっと隆二さん!なんでそんな格好なんですか?!風邪引きますよ!!」
夜の9時を少し過ぎた頃に家にやって来た夕貴は、玄関に入るなり上半身裸だった俺を咎めた。
「大丈夫だって。湯冷めするほど風呂入ってないし、今暑いんだよ!」
手でパタパタと仰ぎ、頼りない風を起こさせる。
烏の行水と言われるほど早く入り終える俺にとって湯冷めなんて言葉は知らない。
「湯冷めするほど入ってないって…いやいや、湯冷めに時間なんて関係ないでしょう?!」
いつもはですます調で話す夕貴だが、この時はそんな事も忘れてか砕けた口調だった。それが、俺にとっては新鮮ではあった。
――いいな、それ。
夕貴に聞こえたのかは分からないが、ため息を付く声が聞こえる。
「んもう、貸してくださいっ!」
肩を押されソファーに埋まる。
「はい、そこ座って!もうなんで濡れたままでいようとするんですか!」
首に掛けてあったタオルをシュルシュルと奪い取られると、頭を包み込むように髪を拭かれた。
口調は少し怒っているようだったが、手から優しさが伝わる。その優しさが今の俺にはもどかしくて夕貴の手を掴むと少し強めに引っ張った。
「ちょっ、まだ拭いてる途中…っ」
案の定、体勢を崩した夕貴は前のめりになり、俺の後ろからのし掛かるような格好になる。
俺はそんなヤツに人生で初めてするかのような辿々しいキスをした。
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