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ーーそれは反則ですよ
なんて声が聞こえた気がした。夕貴は頭をガシガシかくと深呼吸とは違った深い呼吸を数回繰り返し、ソファーの正面に回り込んでくる。
「今のはどう考えても隆二さんが悪いんですからね?」
膝を床に付き目線を俺と同じ高さに合わせた夕貴は、手慣れた様子で眼鏡を外すと躊躇いなく顔を近づけてきた。
びっくりして身を引いたのが間違いだったのだろうか。夕貴は少し眉を顰めると、顎に指をかけた。
ーー自分だけなんてズルいですよ
クイっと上を向かされると、先ほど自分からしたような辿々しいものではない甘さが降ってきた。
「んっ…」
その甘さに溺れそうになる。ずしっと身体に重みが加わり、ソファーに埋もれてしまいそうだった。夕貴のシャツを左手で掴み、右手でソファーをぎゅっと掴もうとしたところで、右手が宙を浮いた。
ぱっと目を見開くと視線が交わった。頭がぼーっとするのはお酒を飲んだためなのか、それともこんなことをされているからなのか。後者なら俺は相当夕貴のことが好きなんじゃないだろうか。
右手は夕貴の温かい手によって繋ぎ止められていた。絡まる指同士が二人を加速させる。
「ゆ…うき」
唇を離したとき自然と声が漏れた。今自分はどんな顔をしているのだろうか。
自分の表情は分からないが、今の夕貴の顔を誰かに見られるようなことがあれば俺は最大限に阻止するだろう。なぜなら俺の目の前には今まで見たことないくらいかっこいいイケメンがいるのだから。
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