ニ夜

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これは失礼。お茶がまだでしたね。どうぞ。飲みながら話をして下さい。「何を話せば良いんだ?」そりゃあ何でも良いんです。惚れた女の話から町に流れる噂。色々とあるでしょう。さっき其処の人が話してくれたでしょう。そんな話で良いんです。そうですねぇ、では私が話をしましょう。こんな話は如何です。お殿様の趣味が美しい人ばかりを拐っては閉じ込め歌を歌わせているというのは。ご存じでしたか。町では聞かない話でしょう。以前はこの辺りにも美しい人達がいたんですよ。それが最近では捕まる事を怖れて遠くへ行ってしまったんですよ。「どうやって拐っているんだ?」近くで見た事がないんで分からないんですよ。関係ないものは鉄砲で撃ち殺されるんですから。怖くて近寄れないんです。物陰に隠れながら拐われて行くのを見るしかないんです。この辺りで強い奴も鉄砲を喰らえばおしまいですから。そんなところで良いですか?仲間が撃ち殺された時のことなので。悲しくなってしまうんですよ。私だって失いたくないんです。助けてあげたいんです。が、鉄砲の前では無力ですよ。誰だってそうでしょう。ですから…。ぁあ毎日のように聞けていた綺麗な歌声も聞けず。ぁあ非常に残念です。貴方にも聞かせてあげたかったですよ。今年は歌いに戻って来てくれると有り難いんですけどね。どうです。此処に来た経緯を話されては。私達は滅多に貴方のような優しい人には出会った事はないのでね。如何です。
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