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――そして夜になって、全てが闇と静寂に包まれて。
寝静まる半身の顔を、もう半分は悲愴な目で見つめていた。
慈しむようでもあり、惜しむようでもあるその目に晒されていることを、恐らく相手は知らない、知ってほしくもない。
少女は願うように目を伏せる。せめてこの願いが、叶いますようにと。
「……んっ」
視線に晒されていることで何かが反応してしまったのだろうか、安らかな寝息の中に小さな声が漏れる。体裁を取り繕うとするも、時すでに遅し。
ホテルの一室、二人の少女には似つかわしくないベッドの上。潤んだ瞳と、胡乱な瞳が交錯する。
「……どうしたの?」
その以心伝心は時に恨みがましいほどの正確さで、不安要素まで伝えてしまうのだから尚のこと困る。
マナは諦めることにした。もう、隠し通すことに意味はない。
「明日がね、不安」
「え?」
言葉とともに、マコの手に温もりが触れる。自らを包む温かさとは違う、か弱さに棚引く温かさ。ホテルの中を淡く照らすランプのように、弱々しく伝わる温度。
「全てが終わって、どうなるのか不安なの」
「……」
知っているつもりでいた。声なきマナの声を。その不安を、悩みを、哀しみを。でもこうして改めて声にしてマナの想いを聞くに、マコの心は揺れる。不安に、悩みに、哀しみに。
当然だ、彼女はマナの半身なのだから。
「……だいじょうぶ」
「え?」
「私は、あるべき姿に帰るだけ。元に戻るだけ。それは間違いじゃない」
「っ、でも、でも……」
言いかけたマナの言葉を、人差し指がそっと遮る。
そこから先の言葉を放ってしまったら自分の決心も揺らいでしまうことを、マコは知っていた。
それだけは、絶対に避けなければならない。
「でも、じゃないよ。明日は頑張っていい結果になるようにしないと」
「……うん」
ダブルベッドの中、手を取り励ましあう二人。鏡のようなその生き写しの姿が交わす言葉と視線に、迷いがないとは言えない。
だが、二人を照らすランプの明かりは、弱々しくても確実に二人の横顔を照らし出す。
それこそが、運命の秤に翻弄された少女たちの、希望の標――
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