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◇
始業式の後は何故か分からないが、少し長めの休憩がある。教師陣側の何かしらの都合なんだろうけれど、全くもって迷惑でしかない。
「ねえ櫻井君」
櫻井君。その名前に、僕の体はピクリと反応した。だけど、朝も言ったけど悲しいことにこの学校に僕の名前を呼ぶ女子はいない。
「……ちょっと!」
何事もなく歩く僕の肩が誰かに捕まれた。突然の衝撃に僕の体はグラリと揺れて倒れそうになったけど、なんとか堪えて二三歩後退した。
「なになに!?」
なんなんだ。誰だ人の肩をいきなり掴む非常識な人間は。確かめるべく、僕は後ろを振り向いた。女子がいた。
女子しかいなかった。
「なんで無視すんのさ。朝の時もそうだけど」
黒髪のセミロング。右側からリボンで括った髪を垂らすその女生徒は、えらく可愛い容姿をしていた。少し幼さを感じさせる顔に純粋な濁ることない瞳。スタイルは、まあ胸が少し残念ではあるけど基本的には健康的な感じ。
学校指定のブレザーにニーソックス、革靴を履いている女生徒を、僕は見たことがない。
「誰?」
僕の純粋な疑問を聞いた女生徒は、刹那ジトリとした暗い目で僕を見た。ああ、冷たい視線ってこういうのか。初めて浴びたよ。
「……確かに初対面ではあるけど、だからっていきなり『誰?』はないんじゃない?」
「知らない人とは会話しちゃいけないって子供の頃に教えられたんだ。会話する前に相手が誰なのかを明確にしておきたい」
「あ……うん。とりあえずツッコむのは止めといて、確かにそうだね。自己紹介だよね。わたしは君と同じクラスの平野よ」
「……はあ。で?」
「君根本的にコミュニケーションっていうの苦手なんじゃない? 友達っている? 会話を続けようって気ある?」
一気に質問するな。あと余計なお世話だ。生憎、コミュニケーションっていうのが苦手だから友達はいないよ。
「なんの理由もなく、君みたいな美少女キャラが、一見何の取り柄もない地味なクラスメイトと思わせたラブコメ主人公の可能性を秘めた僕に話しかけるわけがない。君あれ? もしかしてメインヒロイン的な奴?」
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