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私は新郎新婦の控室を出ると、そのままトイレに向かった。
そして洗面化粧台の前に立ち、自分の顔を見る。
…目から薄っすらと涙が滲み出て、真っ赤な顔をしている。
「これから挙式なのに」
私はそう呟くとハンカチを取り出し、目頭を押さえた。
こんな顔、二人の前で見せられない。
私が泣いているとわかったら美羽の事だ、きっともらい泣きをするだろう。
そんな事になったらまたメイクをやり直さないといけない。
もうじき挙式なんだから、そんな時間あるわけない。
そう思うと私は慌てて二人の前から姿を消した。
孝くんの言葉は私の心を熱くした。
おかあさん。
まさか、あの子の口からそう呼ばれるなんて思ってもいなかった。
孝くんとはかれこれ30年近い付き合いになるが、いつも私の事を小母さんと呼んでいた。
それはもちろん隣の家に住んでいたからだし。
美羽の母親だからだ。
その孝くんと美羽が結婚するようになっても、おかあさんと呼ばれる事はなかった。
幼い頃からずっと呼んでいた、小母さんのままだった。
それが当たり前になっていたし、必要もないと思ってた。
きっと孝くんもそう思っていると思っていた。
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