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「えっ?…あら、お線香あげてくれるの?命日でもないのに悪いわねぇ」
母親は湯呑をテーブルに置くと和室へと歩き出した。
きっとコウの気持ちを尊重したのだろう。
いつもなら「折角のお茶が冷めちゃうでしょ」とか言うのに何も言わないなんて…。
父親に挨拶したいというコウの気持ちが嬉しかったのだと思う。
私達も母親の後を追うようについて行った。
仏壇の前に着くと母親はシュッとマッチ棒に火をつけて、蝋燭に点火した。
そして線香を1本取り出すと蝋燭の火をつけ、香炉に立てる。
私は手を合わせて合掌する母親の姿を後ろから正座をしながらぼんやりと見ていた。
それは見慣れた光景なんだけど、いつ見ても凛としてて綺麗だなぁと思う。
父親に対する母の揺るぎない愛情の深さ。
その想いが黙っていても伝わってくる。
母親が終わると私、コウと順番にお線香をあげた。
そしてコウは終わると立ち上がり、私達の後ろに向き合うように座った。
その表情は凛としていて、まるで父親と向き合っているように見える。
私はそんなコウを見ながら「やっぱりコイツかっこいいな」と思っていた。
するとコウは母親の顔をじっと見ながら名前を呼んだ。
「小母さん」
「はい?」
母親は突然名前を呼ばれて驚いた顔をしている。
それは私も同じだった。
だってこうして改めて呼ばれるなんてないから。
だから母親と二人背筋をピンとしてコウの顔を見ていた。
するとコウはスッと前に手を出すと深々と頭を下げながら言った。
「小父さん、小母さん。お嬢さんを僕にください」
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