2009人が本棚に入れています
本棚に追加
コウは挨拶が終わると、お茶も飲まずにそのまま帰って行った。
どうやら挨拶のみで長居をするつもりはなかったらしい。
「孝くんっていい子よね」
母親はコウが帰ると染み染みと言った
その顔にはまだ余韻が残っているらしくぼんやりとしている。
用意したお茶も手を付けられず、冷め始めっている。
そりゃあそうだ。こんな展開誰が予想したか。
まさかこの場で結婚の挨拶をするなんて、私だって思っていなかったから。
母親が驚くのも当然だ。
「…うん。そうだね」
私は母親の言葉に深く頷いた。
きっと今、私の顔も母親と同様にぼんやりしていると思う。
だって…コウがあんな事をするなんて。
私を幸せにする。
それを親に公言してくれた。
よくある結婚の挨拶かもしれないけど、これ以上の嬉しい事はない。
思い出しただけで嬉しくて、また涙が出そうになる。
ああ…私はコウに愛されているんだ。
母親はやっと落ち着いたのか、湯呑を手に取りお茶を飲んだ。
そして「ふぅ」と一息吐くとニコリとして言った。
「やっぱり孝くんで良かった」
…孝くんで良かった。
私は母親の言葉が胸に引っかかった。
それはまるでずっと前から決めてたように聞こえたから。
母親はどうしてコウを選んだのだろう?
前に聞いた時は適当にはぐらかされたけど、やっぱり気になる。
だから私は聞いてみた。
「ねえ、前にも聞いたけど何でコウだったの?」
最初のコメントを投稿しよう!