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アレックスは、今からおよそ半世紀前に、北西の世界都市である『イングラム』で起きたとある事件に巻き込まれたのだ。
それがきっかけとなり、彼女は当時の『イングラム』政府によって、ついこの間まで『ブラン・ド・シエル』と呼ばれる白亜の城塞に幽閉されていたのだが……。
「五十二年前に『イングラム』で起きた事件のせいで、あの子は最近までずっと牢屋に閉じ込められてたんだよ。強力な吸血鬼の力を封じ込めるための、キツい戒(いまし)めを施させてさ」
抑揚の無い、平坦な声音が俺の口から滑り出した。
興味深そうな相槌が、隣から聞こえた。
「ほう」
「それでも、この間、ついにアレックスを封じる魔術的な結界が破られたんだ。原因は、強い戒めを施されながらも、年々力を増していくあの子の方に、掛けられた“封印”が耐え切れなくなったんだって」
「なるほどのう」
“封印”を破ったアレックスは、その後、自分を捕えている牢屋の壁を壊して、『ブラン・ド・シエル』の外に出た。
当てもなく『イングラム』の街を彷徨(さまよ)った彼女は、その時、偶然『イングラム』に赴いていた俺達と遭遇して、それからは……。
「それから今、あの娘は紆余曲折を経て、主達と行動を共にしておると、こういうわけか」
「……うん」
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