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……うん。
お姉ちゃんの言いつけを守ろうとするのは、大変結構な事なのだが…………。
俺は、俺にはまだこの露天風呂でやり残した事があるのだ。
それを終えるまでは、ここを出るわけには……。
「くしゅんっ!」
「あ、アレックス?」
その時、俺の背中から手を回して抱き着いていたアレックスが、小さくくしゃみをした。
しかし、彼女はすぐに今まで通りの笑顔を浮かべると、何事もなかったかのように俺を見上げて、可愛らしく小首を傾げた。
「なあに、レオンさん」
純粋な翠(みどり)の瞳が、真っ直ぐに俺の目を見上げる。
「…………」
一瞬だけ、俺は胸の内の葛藤と戦ってから、やがて脱衣場の方に向き直った。
確かに、ウカの言葉はとても気になるものの…………。
やはり、背に腹は代えられない。
「なんでもないよ。それじゃあ、早く服着よ?」
「うん!」
元気のいい声が、背中の方から聞こえてきた。
(かなわないな……)
心の中でそっと呟きながら、俺は密かに苦笑した。
ほどなくして到着した横開きの扉をロキが開けて、俺達はそのまま脱衣場に入った。
そして、ぞろぞろと全員が扉を潜り終えると、俺は後ろを振り返ることなく、露天風呂と脱衣場とを隔てる扉を閉めたのだった。
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