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「…………」
彼女は無言のまま、じっと俺の目を見つめてから…………。
再び、敷いている途中の布団に向き直った。
「ねっ……。ねぇ、ちょっと…………!」
慌てて俺は言葉を重ねた。
「なに? どうしたの?」
透明感のある綺麗な声音と共に、もう一度、リンドウは振り返った。
それを聞きたいのはこちらの方なのだが……。
ひとまず気を取り直しつつ、俺は改めて彼女に尋ねた。
「君は、ここで何をやっているの?」
「見れば分かるでしょう?」
淀みのない口調で彼女は答えてから、こころなしか得意そうに見える表情と共に、足元の布団を手で示した。
「…………」
少しの間、俺は言葉を発する事が出来なかった。
くいくいと、アレックスが白衣の袖を引っ張った。
ふとそちらを見やると、翠(みどり)の瞳が不思議そうに俺を見上げていた。
俺は彼女に向けて、なんでもないというように首を振ってから、小さく咳払いをした。
……ごほん。
今一度、俺は室内のリンドウに正対すると、先ほどとは違う質問を投げ掛けた。
「どうして、君はここにいるの? 確か君の部屋って、この部屋から五分くらい歩いた先の場所だよね?」
今朝、アレックスと一緒に学舎の中を歩き回っていた時の事を思い出しながら尋ねると……。
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