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それならば…………。
俺は、胸の内の、その考えの続きを口にしようとして、何気なくリンドウの様子を窺った。
すると、
「……別に、いいでしょう?」
彼女は、あくまでも念のためなのだから、と、付け加えながら、まるで、親に何かの許しをもらおうとして、切実にお願いをする子供のような眼差しを俺に向けた。
いつも、意思の強そうな光を宿していた彼女の瞳に、その時、俺は初めて年相応の少女らしい健気(けなげ)さを見た気がした。
今のリンドウは、昼間の組み手の時に、眉一つ動かさずに梓弓(あずさゆみ)の弦を弾いていた彼女とは全くの人間のようだった。
気がつくと、リンドウは色の白い小さな手で、自分が身に付けている巫女装束の緋袴(ひばかま)をぎゅっと握りしめていた。
そのふとした仕草は、俺にはとてもいじらしく感じられ、
「……うん。いいよ。別に…………」
しかし、だからと言うわけでは無いのだが……。
俺は、どこかひねくれた返事と共に、いつの間にか首を縦に振ってしまっていた。
同時に、俺の心に押し寄せてきた妙な照れくささから逃れるために、俺はリンドウから視線を逸らした。
「そう……。ありがとう」
直後、彼女からは短い返事が返って来た。
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