悪鬼羅刹

35/73
前へ
/642ページ
次へ
それならば…………。 俺は、胸の内の、その考えの続きを口にしようとして、何気なくリンドウの様子を窺った。 すると、 「……別に、いいでしょう?」 彼女は、あくまでも念のためなのだから、と、付け加えながら、まるで、親に何かの許しをもらおうとして、切実にお願いをする子供のような眼差しを俺に向けた。 いつも、意思の強そうな光を宿していた彼女の瞳に、その時、俺は初めて年相応の少女らしい健気(けなげ)さを見た気がした。 今のリンドウは、昼間の組み手の時に、眉一つ動かさずに梓弓(あずさゆみ)の弦を弾いていた彼女とは全くの人間のようだった。 気がつくと、リンドウは色の白い小さな手で、自分が身に付けている巫女装束の緋袴(ひばかま)をぎゅっと握りしめていた。 そのふとした仕草は、俺にはとてもいじらしく感じられ、 「……うん。いいよ。別に…………」 しかし、だからと言うわけでは無いのだが……。 俺は、どこかひねくれた返事と共に、いつの間にか首を縦に振ってしまっていた。 同時に、俺の心に押し寄せてきた妙な照れくささから逃れるために、俺はリンドウから視線を逸らした。 「そう……。ありがとう」 直後、彼女からは短い返事が返って来た。
/642ページ

最初のコメントを投稿しよう!

563人が本棚に入れています
本棚に追加