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焦点の合っていない目で、ただ、ぼんやりと床に使われている石材を眺めていると…………。
心なしか、胸の内で渦を巻いていた心労が、少しずつ薄れていくような気がした。
もちろん、そんなものは気のせいに違いない。
安っぽくて貧弱な、ただのまやかしだ。
けれども今の俺は、そうやって自分を騙(だま)していなければ、とても弱った自分の心を支えていられそうになかった。
しばらくの間、俺は濁った青のような色をした床に視線を落としたまま、深い呼吸を繰り返していると……。
徐々にではあるが、ようやく落ち着いて来た。
「すぅ…………はぁ…………」
最後に、俺は大きく深呼吸を行うと、ようやくその場を立ち上がった。
「……うん。もういいよ」
リンドウの目を見て、小さく頷く。
とりあえず、先ほどのパンツの件については…………。
……まぁ、きっと誰にも見られてはいないだろう。
ウカ曰く、『百鬼夜行』討伐の関係で、ここで暮らしている人達のほとんどは出払っているという事で、その上、実際に部屋からこの洗い場までの道を歩いてみても、誰とも出くわす事はなかったのだから。
「それじゃあ……」
リンドウは俺の返事を受けてから、おもむろに腕を持ち上げた。
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