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そして、彼女はこの大きな部屋の隅を指さして、一言。
「まず、桶を持ってきて」
その言葉を聞いた俺は、彼女の指先が指し示す方向へと首を向けた。
そこには、洗濯用と思しき大きな桶が山と積まれていた。
「……うん」
リンドウの言葉に従って、俺はアレックスと共に部屋の隅へと向かい、二人で大きな桶を一つ抱えて戻って来た。
それから、俺とアレックスは彼女の指示で部屋の外にある水汲み場まで赴き、水を調達。
その後、洗い場に常備されていた洗剤を借りて、今日一日お世話になった服の手洗いを開始した。……そうして少しの間、黙々と巫女装束を洗い続けていた俺は、
「ねぇ、そういえば……」
緋袴(ひばかま)を洗う手を休める事無く、傍らで俺とアレックスの様子を見つめているリンドウに質問をした。
「どうして、『魔厳』には機械なんかの生活用品が無いの?」
この『イザナギ』に来てから、俺は『ロト』や『イングラム』では当たり前のように目にして来た洗濯機や冷蔵庫などの機器の類を見かけていない。
電気や魔力等で動くそれらの便利な道具無しで、『魔厳』は生活を回転させていけるのだろうか?
……などと、少々今更な感の拭(ぬぐ)えない俺の問い掛けに対して、彼女は眉一つ動かす事なく答えた。
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