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「『魔厳』には……。というよりも、『イザナギ』はそもそも古くからの伝統や格式を重んじる『世界都市』だから、こういう日常的な仕事の一つ一つは自力でこなすっていう規則みたいなものがあるの」
「そう、なんだ」
伝統や格式。
確かに、ここに機器が無い理由がそういうものだとすれば納得が出来る。
俺は、質問のために開いた口を閉じると、再び桶に向き直った。
とにかく、郷に入ったのだから郷に従おう。
今まで脈々と続いて来たのであろう『イザナギ』の風習に携わりながら、俺はひたすら手を動かした。
数十分後。
ようやく俺達は洗濯を終えると、それを洗い場の隣に併設されている物干し用の場所に干した。
それから、俺達はリンドウの言葉で多少遅めの夕食を取る事になった。
相変わらず、俺は慣れない箸での食事に苦戦しながら、それでも、時間を掛けてどうにか用意された料理の完食に漕ぎ着けた。
「……はぁ」
最後に俺が湯飲みのお茶を飲み終えると、そのまま、俺達は自分達の部屋に戻った。
襖(ふすま)を開けた途端に、視界に三組の布団が飛び込んで来た。
先ほど、リンドウが敷いたものだ。
俺は布団を見た途端、思わずそれに向かって倒れ込みたくなった。
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