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あの時は、確かにっこりと目を細めた笑顔だった。
なんとなく、俺はウカに似ている気がする、などと考えていた。
だが…………。
「…………」
俺は胸に自分とアレックスの寝巻きを抱えたまま、もう一度朝の時のように、じっとお面を見つめた。
相変わらず、狐は笑っていた。
細められた目元にも、見覚えはあった。
……しかし、その顔から受ける印象は、やっぱり、どこかが微妙に異なっているように思える。
「どうしたの?」
背中からリンドウに声を掛けられて、俺は振り返った。
「ううん。なんでもないよ」
……きっと、見間違いか何かだろう。
軽く首を振って答えながら、俺は後ろ手に襖を閉めた。
じりり…………。
鏡台に置かれた小さな火取り皿が、焦げるような音を立てた。
薄っすらと、暗い部屋を暖かく照らすオレンジの光りが揺れて、鏡台の影が僅かに伸びる。
しばらく、俺はその影の様子を眺めていたが…………。
やがて、目を閉じた。
あの後、部屋の押し入れから寝巻きを取り出した俺は、早速リンドウが敷いてくれた布団に横になった。
いかにも柔らかそうに見えた布団は、俺を期待通りの感触と暖かさで向かえてくれた。
そして、そのまま数分もしない内に、俺は眠ってしまったのだが…………。
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